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「新学術領域研究」交替劇:研究項目A01

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研究組織
代表者
青木健一:東京大学・大学院理学系研究科・教授・集団生物学;統括・進化モデル記述
研究分担者
川崎廣吉:同志社大学・文化情報学部・教授・数理生物学;進化モデル記述解析
若野友一郎:明治大学・先端数理科学インスティチュート・准教授・数理生物学;進化モデル記述解析
木村亮介:琉球大学・亜熱帯島嶼科学超域研究推進機構・特命准教授・分子人類学;分子集団遺伝学データ解析
研究協力者
中橋:先端数理科学インスティチュート・研究推進員・数理生物学;進化モデル記述解析
小林:東京大学・大学院理学系研究科・特任研究員・数理生物学;進化モデル記述解析
海外共同研究者
Marcus W. Feldman:米国・スタンフォード大学・教授・集団生物学;進化モデル記述解析
Laurent Lehmann:スイス・ヌーシャテル大学・助教・集団生物学;進化モデル記述解析
招待研究者
嶋田:藤田保健衛生大学・総合医科学研究所・講師
研究課題名:現生人類集団中に見られる絶滅古人類起源ハプロタイプより両者の混血と交替劇を探る 
高橋伸幸:北海道大学・文学研究科及び社会科学実験研究センター・准教授
研究課題名:サピエンス固有の学習能力の同定
堀内史朗:明治大学・研究知財戦略機構・研究推進員
研究課題名:地域間交流が新文化を創発するメカニズムの解明
全体研究計画(2010―2014)
本班は、旧人と新人の交替劇が両者の生得的な学習能力差に求められるとする「学習仮説」の理論的根拠を明らかにする。そのために、社会学習(模倣、教示など他者から学ぶこと)および個体学習(試行錯誤、洞察など自力で学ぶこと)のそれぞれの能力が、環境変化に対する適応として進化する条件を進化モデルの研究により示し、B02班が提供する気候変動データなどを参考にしながら、これらの能力が新人のみで高度な進化を遂げた理由を問う。また、旧人と新人の学習能力差は、両者の文化進化速度の違いに最も直接的に反映されるはずであるが、その因果関係についてA01班が提供する考古学的証拠に基づいて考察する。一方、新人の高度な学習能力を担っている遺伝子を分子集団遺伝学データの統計解析により同定し、C02班が提供する現代人の脳機能地図と照合しながら、その発現部位について議論する。さらに、進化モデルおよび分子集団遺伝学データの両面から、新人のアフリカ内外 の分布拡大の模様、速度、および経路について検討する。
環境変化が社会学習および個体学習の能力の進化に及ぼす影響について数理モデルを記述・解析する。特に、環境の空間的異質性を取り入れた飛石モデル(居住地が数珠状に連なっている、Aoki & Nakahashi 2008 Theoretical Population Biology 74, 356-368 参照)や反応拡散モデル(居住地が連続的に分布する、Shigesada & Kawasaki 1997 Biological Invasions, Oxford University Press)を重点的に研究し、異質環境への分布拡大に伴って高度な学習能力(とりわけ個体学習能力)が進化する条件を導く。また、原人や旧人を含めた生物全般の分布拡大との比較において、好適環境への集合や非好適環境への進出、密度依存的な移住や移住率そのものの変化に着目しながら、新人の分布拡大の特徴を数理生態学および分子集団遺伝学の両面から検討し、上述の進化モデルの精密化を図る。さらに、新人が分布拡大する地域に、先住する旧人がいるか否かの効果も調べる。
これらの研究から得られた知見に、B02班から提供される環境変化(居住地間の環境の違いなど)に関する定量的データなどを加え、学習能力が新人のみで高度に進化した理由を明らかにする。
学習能力の進化に文化伝達を組み入れた遺伝子・文化の共進化モデルを用いて、個体学習によって創出される新技術やその所産が、社会学習によって文化的に伝播する過程を明らかにする。これにより、現代的行動(後期旧石器、装飾品、美術品)の時空分布を予測することが可能になる。また、学習能力と文化進化速度の関係を理論的に研究する。たとえば、教示伝達(石器製作技術などが一人の熟練者から多数の初心者に伝達される)が、文化進化を早めるという一部の考古学者の主張に対して、理論的検討を行う(Aoki & Feldman 投稿中)。
現代人におけるゲノム多様性を統計解析することにより、新人の集団サイズの変遷や分布拡大のあり方について推定する。また、チンパンジー、(draft sequence が最近発表された)ネアンデルタール、および現代人のゲノムデータを活用して、新人の系統で、どの遺伝子にいつ、どこで、どの程度の強さの自然淘汰が働いたかを統計的に推定する(連鎖不平衡領域におけるスウィープ、非同義置換の比率などを利用)。とりわけ、脳神経系で発現している遺伝子において自然淘汰が働いた痕跡を調べることにより、進化モデルの前提であり、かつそれから予測される、新人の優れた個体学習能力に関与する遺伝子を同定する。
2010年度研究実施計画
蓄積的な文化を支えるSE(social-learner-explorer)学習戦略が進化する条件の解明。
反応拡散方程式による学習能力の進化モデルの記述および初期解析。
分子集団遺伝学データの統計解析による新人の分布拡大の模様、速度、および経路の推定。
SE戦略とは、社会学習によって習得した既存行動を、個体学習によって修正し、環境への適合性を高める複合学習戦略である。ヒトによる分布拡大を模した一次元飛石モデル(環境は、各々の居住地内で均一、居住地間で異なる)において、SE戦略が進化する条件を求める。とりわけ、社会学習、個体学習、および移住がそれぞれ行われる生活史段階に着目して解析を進める(図1)。さらに、分布拡大の最前線で起きるとされる"波乗り効果"(surfing)も考慮する。
新学術領域研究:ネアンデルタールとサピエンス交替劇の真相
図1
島モデルの解析により、SE戦略が進化するためには、移住のタイミングが社会学習の後、個体学習の前でなければならない(○)ことが明らかとなった(Aoki 2010 Evolution 印刷中)。環境が異なる居住地の間の移住が、社会学習の前(×)、または個体学習の後(×)にある場合、SE戦略は進化しない。
個体学習者と社会学習者が空間的に均一または不均一な環境で競争する反応拡散モデルを用いて、分布拡大の様子とりわけその速度を求める。既に、空間的に均一な場合においては、予備的な計算から、幾つかの等速進行波解が存在し、興味深い振る舞いを起こすことが明らかとなった(図2)。このモデルを基礎として、空間が不均一な環境での分布拡大のモデルを記述、解析する。また、ランドム移住(単純拡散)に加え、旧人に恐らく当てはまる好適環境への集合(方向性拡散)がある場合の反応拡散モデルを記述、解析する。これらの結果をもとに、分布拡大が学習能力の進化に与える影響を明らかにする。
新学術領域研究:ネアンデルタールとサピエンス交替劇の真相
図2
右方向へ分布拡大する場合の、初期侵入から十分な時間経過後のスナップショット。モデルのパラメタに依存する、何種類かの異なる分布拡大様式の中の一例。
過去の集団のサイズや分岐についてパラメタ値を様々に仮定してシミュレーションを行い、その結果が現代人のゲノム多様性データと適合するような最尤推定値を求める。また、得られた知見から、移動する集団サイズ、元の集団との遺伝的交流、環境収容力、人口圧などどの関連について検証する。
新学術領域研究:ネアンデルタールとサピエンス交替劇の真相
図3
飛石モデルを仮定した分布拡大のシミュレーション。青い円は分集団を表す。矢印(オレンジ、赤、緑)は、人の移動を表す。オレンジ色の両方向矢印によって結ばれた分集団は、一つの近隣集団を形成する。赤および緑の単方向矢印は、無人の居住地への入植を表す。近隣集団中の分集団の数とサイズ、分集団および近隣集団間の移住率、入植の時期などがパラメタとなる。

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